発行日 平成14年7月25日
編集/発行 社団法人 食品需給研究センター
54ページ
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巻頭言
重視したい輸送コストの削減
藤島 廣二(東京農業大学国際食料情報学部 教授)
近年、中国野菜を中心とする野菜輸入の増大が著しい。その輸入野菜対策として、現在、国産野菜の契約取引の推進や高付加価値化とともに、低価格に対応するため機械化等による生産コストの削減が重視されている。
筆者もこれらの対策がきわめて重要と思う者の1人である。ただし、コスト削減に関しては、筆者は生産コストと同程度に輸送コストも重視すべきと考えている。
というのは、中国国内で産地から港までトラックで輸送するのに必要な費用は1kg当たり1〜3円程度、中国の港(青島港、廈門港、等)から日本の港(東京港、神戸港、等)までの運賃は40フィートのリーファー・コンテナ(冷蔵冷凍コンテナ)で7円〜12円程度(1コンテナの利用料金で1,300ドル〜1,500ドル)、合計しても15円に満たない。これに対し、日本国内で積載量10t前後の冷蔵車を利用して(途中、フェリーに乗せることもある)、東北地方や北海道、あるいは九州・四国地方から東京へ運ぶと、運賃は通常で30円〜50円、中国産輸入野菜の3倍前後、あるいはそれ以上にもなるからである。
日本国内の運賃がこれほどに高くなる理由は、ガソリン価格や高速道路料金の高さもさることながら、やはり何といっても運転手の賃金、すなわち人件費がかさむことであろう。日本の人件費は世界でも最も高いとのことであるが、中国に比べると20倍〜30倍にもなるといわれているほどである。
それゆえ、輸送コストを削減するためには、輸送単位当たりの人件費を縮減することが重要といえるが、その方法は@輸送に必要な労働時間の短縮をはかる、またはA1人当たりの輸送量を増大する、のいずれかである。
労働時間を短縮する最も重視すべき方法は、一貫パレチゼーションの構築であろう。ある調査によれば、10t車への積み降ろしを1人で行う場合に必要な時間は、手荷役で6時間、これに対しパレット荷役は2時間10分であった。しかも、パレット荷役になると重労働から解放されるため、女性でも高齢者でも運転手となることができ、この点でも人件費の削減が可能といえる。
一方、1人当たり輸送量を増大する方法は、トレーラーの利用である。トレーラーの積載量は20t前後であることから、1人の運転手で10tトラックの2倍の数量を運ぶことが可能となり、当然、輸送コストの削減につながる。実際、佐賀県経済連が20tトレーラーでタマネギを輸送したところ、東京までの運賃は従来の半分ですんだとのことである。
今後も低価格の輸入野菜が増加する可能性は高いとみて間違いない。そのための対策として、生産コストと同程度に輸送コストの削減にも力を入れることを強く望みたい。
調査報告
牛乳類の消費構造の変化と酪農乳業の課題(要約)
関根 隆夫(食品需給研究センター)
牛乳類の小売価格は、バブル崩壊後の価格革命(破壊)、また、デフレの進行に伴い、引き続き下落しているが、消費は食中毒事故、BSEの発生も相まって減少傾向が著しい。消費の低迷は少子高齢化の急速な進展も一因である。小売価格の下落は、マークアップ率の低下をもたらし、これは他の生鮮食品と比べても低いものと推測される。このような背景から、市乳事業の収益性は一層悪化し、乳業再編を促進させるとともに大きな課題でもある。牛乳類の差別化製品の市場は、全体の約1割程度と推測される。今後、差別化製品シェアの拡大がもつ意義はきわめて大きい。特に中小乳業では、牛乳類の価値基準を見直し、消費者とのコミュニケーションを通じてこれらに対する支持を拡大していくことが生き残り策の戦略ドメインでもある。
調査報告
日本人のナチュラルチーズに対する嗜好と認知・経験
酒井 純(食品需給研究センター)
日本人は一般に、様々なナチュラルチーズの中でも、口当たりがなめらかで、香り・苦み等の刺激の少ないものを好む傾向がある。しかし各種のチーズに対する認知や、それを食べた経験があるかどうかによって、嗜好は大きく左右される。消費者にチーズの種類を正しく認知させ、食べる機会を増やしてもらうことが重要である。
調査報告
食生活の見直しから食品ごみの発生を考える
長谷川 潤一(食品需給研究センター)
私たちの食生活は、健康、栄養についての適切な情報の不足、食習慣の乱れ等により、生活習慣病の増加や栄養バランスの偏りといった問題が発生している。また、食の多様化などに伴い、過度な鮮度志向等を背景として、食品が大量に食べ残されたり、廃棄されたりしている。このようにして生じた食品ごみは、低減化に向けた種々の取り組みから、近年、増加は見られないものの、ほぼ横這いが続いている状況である。行政サイドでは、食品ロス統計調査や食生活指針などをとおして、日常生活における食品ごみの発生抑制を喚起している。今後、食品ごみの低減化をより一層進めるためには、日々の食生活において、購入、調理、食事、廃棄など食品ごみが発生しうる場面での工夫や発想の転換をとおして、食生活と食品ごみとの関連を考える必要がある。
調査報告
食品表示の現状と今後の可能性
小野 一弘(食品需給研究センター)
今年に入り、食品の偽装表示事件が相次いでいる。その背景として、食品は生産から流通、そして小売に至るまで多くの経済主体が介在し、問題が発生した場合の責任の所在があいまいになりやすいことが考えられる。農林水産省始め関係府省において今後の食品表示制度のあり方に向けた新たな取り組みをスタートさせており、一元化した食品表示制度の早期実現が望まれる。一方、消費者は食品を購入するかどうかの判断を表示をみて決める度合いが高いとみられることから、マーケティング戦略の手法として表示に取組んでいくことが有効だろう。それは一つは差別化によるブランド表示、一つは環境ラベルの手法を用いて消費者へアピールすることにより、訴求力を高める戦略が考えられる。
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