発行日 平成14年10月25日
編集/発行 社団法人 食品需給研究センター
67ページ
定価2,100円(本体2,000円)完売しました。
巻頭言
食品産業新展開の条件
山本 博信(東京農業大学国際食料情報学部 教授)
経済産業研究所が計測した全要素生産性(労働力、設備、エネルギー、原材料総合の生産要素1単位当たりの生産量を示す指標)について日本と米国の比較をみると、食料品の製造については日本は米国のそれの60%程度の水準にとどまっている(1995年)。また、日本の小売業全体の労働生産性(1人当たり生産量)は、米国のそれと比較して50%の水準にとどまっており、6割近くを占める個人商店の労働生産性は、米国の20%と極めて低い水準にある(1997年マッキンゼー資料による)。
このように食品産業の労働生産性が相対的に低い直接的要因は、食品製造業では産業の構造がガリバー型で経営基盤が脆弱な企業が多いこと、原材料の価格が割高であること、人件費を含む経営コストが大きいこと等である。特に、原材料の価格が国際価格から乖離していることと経営コストの増嵩は、加工食品の生産の拠点を海外に移す大きな要因となっている。また、日本の飲食料品の小売業の中に占める個人商店の割合は65%であることから、日本の飲食料品小売店の労働生産性が極めて低位にあることは疑いの余地はない。日本の小売業の労働生産性が低いのは日本型流通システムの改革が後れたこと、日本型商慣習や法的規制によって、市場競争が十分行われてこなかったことに起因している。
ところで、日本の経済産業は、バブル経済の崩壊とその後の停滞局面の背景が循環的要因ではなく、構造的要因によるものであることに気づくのに10年以上を費やした。今日、日本は経済産業をはじめ政治、行政、司法、教育、社会、各種制度等あらゆる分野に構造改革を促す変化の波が押し寄せている。
変化の波の背景の第1は、円ドルレートの切り上がりにより、日本の市場が拡大したことであり、 第2は東西冷戦構造の終結により、経済的資源が軍需から民需に移動したことであり、第3は経済のグローバル化が進んだことであり、第4は消費財市場が成熟化したことであり、第5はデジタル情報技術の開発普及が進んだことである。
この変化の波は、日本にとって避けて通ることができないものである。これまでの10年間は“失われた10年”といわれるように、このことに対する日本の認識と対応には遅々として進歩がみられなかったが、21世紀に入って少しずつ動意がみられるようになった。変化の波の浸透を経済産業の分野に限定してその影響をみると、第1は市場経済化が浸透しつつあり、目指す公正と効率を実現するため機会の平等が進みつつあること、第2は大競争時代が到来し企業の再編が進みつつあること、第3は消費者主権(主義)の社会システムの構築が進みつつあること、第4に一物一価の潮流が強まっていること、第5に市場の細分化が進みつつあることである。
さて、食品産業の新展開に不可欠なことは、食品産業を支えている人口、経済的要因、社会的要因、空間的及び時間的要因の変化を見通し対応を進めることである。しかし、今日日本に押し寄せている変化の波(構造的要因)は、こうした食品産業をめぐる与件の変化をも促している。最近の食品産業をめぐる問題(BSE、偽装表示、セーフガードの発動、企業の再編淘汰等)の発生は、このことを裏付ける重要な証左である。食品産業の新展開の具体化は、構造的要因とそれが与件にどのような影響を与えているかを見極めることから始めなければならない。
調査報告
輸入野菜の動向と市場取引(要約)
鎌倉 一郎(食品需給研究センター)
近年、生鮮野菜の輸入が急増しており、年間100万トンに迫る状況となっている。平成14年は中国産ほうれんそうの残留農薬問題などから前年を下回っているが、趨勢的には増加傾向にある。
生鮮野菜の輸入は、国内産の不作対応による緊急避難的な輸入、国内産の端境期対応の補完的輸入を契機として増加したが、現在、輸出国の周年安定供給体制の整備により国内産との競合型輸入に移行しつつあり、卸売市場の取引として定着してきている。
本稿は、生鮮野菜の輸入動向と卸売市場における輸入野菜の取引実態を明らかにしたものである。
調査報告
中山間農業地域における雑豆類の生産
―白小豆と黒大豆の事例―(要約)
村上 陽子(食品需給研究センター)
中山間農業地域においては加工原料となる雑豆類を水田転作作物として取り上げ、特産化を目指す動きがみられる。岡山県久世町では高齢者に適した作物として白小豆を、京都府夜久野町では黒大豆を導入し、一定の成果をあげている。白小豆は高級和菓子の原料として、一方黒大豆は高級煮豆用として、産地集荷業者を経由して、エンドユーザー(実需者)に販売されている。雑豆類の特産化を図るためには、実需者のニーズを的確に把握し販路を確保することが重要であるが、生産者の価格に対する関心は高いものの、実需者ニーズに対する関心の持ち方には地域により違いがみられる。
調査報告
2001年における食品製造業産出額推計(要約)
宇野 雅美(食品需給研究センター)
2001年食品製造業産出額は27兆8,385億円で、前年比1.3%の増加となった。2000年に引き続き増加で推移したことは、食品製造業の底堅さを裏付けるものである。2001年の特徴としては、ウエイトの高い酒類でデフレ下において低価格・低アルコール飲料が伸長したこと、消費者の健康志向の高まりから健康維持を推進する製品や機能性食品の増加が散見されたことがあげられる。また、2001年後半に生じたBSEの影響は、畜産食料品のみならず様々な部門に波及しており、消費者の消費行動にも変化をもたらした。
調査報告
食品廃棄物処理における企業行動とその課題(要約)
中田 仁史(食品需給研究センター)
我が国の食品廃棄物の発生量は、農林水産省によると平成8年度で1,940万トンと推計されている。一方、従来の焼却・埋立処分ではダイオキシン等の発生や埋立処分場の不足が問題となっており、平成13年5月にはいわゆる食品リサイクル法が施行された。平成13年度に当センターが実施した食品リサイクル技術に関するアンケート調査では、処理装置を購入して食品廃棄物処理を行う食品関連企業より、売り手である機械等製造業で「処理装置費が高価」と考える割合が高くなり、両者の意識に相違があることが明らかになった。今後、食品リサイクルを進めるためには、両者が連携を図り、意識の相違を解消していくことが重要であると考えられる。
一般社団法人食品需給研究センター Food Marketing Research and Information Center
〒114-0024 東京都北区西ヶ原3-1-12 西ヶ原創美ハイツ2F TEL:03-5567-1991(代表) FAX:03-5567-1960