発行日 平成15年1月25日
編集/発行 社団法人 食品需給研究センター
66ページ
定価2,100円(本体2,000円)完売しました。
巻頭言
食の安心とガバナンス
梅沢 昌太郎(日本大学 教授)
食の安心と安全は違うと言う人がいます。安全というのは制度やシステムに裏付けられた概念であり、安心ということは非常に情緒的なコンセプトであるというところに、その違いにこだわる理由がありそうです。
たしかに、安全を保証する仕組みがなければ、安心感は生まれないのです。その裏付けがなければ、その安心は単なるブランド信仰と違わないことになってしまいます。
ブランドは事業組織や個人にとって、大事な資産(エクイティ)であります。しかし、それはまた、非常に儚い基盤の上に成り立っていることも事実なのです。
イメージが先行したブランドは、一度不祥事が発生すると、うたかたの様に消え去ってしまいます。後には取り返しがつかない悔悟が残るのは、ごく最近の事例が証明しています。そのことを実証しているのが、企業イメージが大変に優れていた事業組織であることが、生活者にとってやりきれないことです。 生協も農協も生活者という概念では、同じ次元にあったと考えられていました。しかし、その期待は見事に裏切られているのです。行政もその無責任と非対称性が、日本だけでなく世界の話題となりました。
どうも日本は安全・安心という点でも、世界の反面教師になってしまったようです。日本という超有名なブランドが、地にまみれたということも出来るのです。しかし、よく考えてみると、日本の事業システムに大きな問題があると思います。
BSE騒動は行政のミスによるもので、事業組織や個人の力の超えた次元のことです。しかし、食肉偽装事件などに見られた共通の現象は、「業績が悪化するのが怖かった」という、部長や所長、つまりミドル・マネジャーの人々の恐怖心です。その人々は、事業組織の損益に対して直接の責任を課せられています。直近の損を補えれば、悪魔とも結婚するかもしれないのです。
その一方で、それらの企業のトップは、非常に高邁な企業倫理を説いています。ある企業イメージの優れた企業の幾つかは、談合の先頭にあるのです。その担当者の苦悩の相談に乗ったのですから、そのことは真実です。ミドル・マネジャーにまでコーポレート・ガバナンス(企業統治)が、徹底していることが大事なのです。そのためには、事業部に短期的な損益を課する事業経営の仕組みを、根本的に変える必要があると考えます。
行政は、消費者・生活者に中心にする施策に転換しました。いま問われているのは企業や協同組合などの事業組織の、総体的なガバナンスなのです。
食の安心を支えるのは、ガバナンスという安全システムであるということです。
調査報告
食料システム・サ-ビスセンタ−構想(要約)
唯是 康彦(地域政策フォーラム 代表)
「農業集落」は日本における近代化の活力源であったが、高度経済成長期を経過して「混住社会」に変貌し、高齢化して、いまや崩壊寸前の状況にある。これを地域的に再編成して、新しい日本の活力源にすることは、当面、われわれに義務付けられた最大の課題である。それにもかかわらず、いま話題の「地方分権」論議は形式的な制度論に終始し、内容がない。農業を地域別に「食料システム」に編入して、新しい地域社会の形成に役立てるため、市町村合併を契機に地域別「サ−ビスセンタ−」の設立を提案する。
調査報告
トレーサビリティ・システムとIPシステム(要約)
松田 友義(千葉大学大学院自然科学研究科 教授)
現在、多くの企業や団体、自治体によってトレーサビリティを保証するためのシステムが導入されつつある。しかしそれらの多くが、品質保証、安全性保障を目的としたものであり,遡及可能な場合も生産遡及のみにとどまっている。本来これらのシステムは商品識別システム、IP (Identity Preservation,識別情報保持)システムとでも呼ぶべきシステムであり、消費者の立場に立ったトレーサビリティ・システムとは似て非なるものである。消費者の食に対する信頼を取り戻すためには消費者の立場に立ったトレーサビリティ・システムの開発が望まれる。消費者が望んでいるのは、国産農産物を差別化するためのIPシステムではなく、安心して食品を購入するための環境作りであり、そのためのトレーサビリティ・システムであるということを忘れてはならない。
調査報告
キクの輸入構造の変化(要約)
江端 一成(食品需給研究センター)
我が国の切花の需要は、バブル経済期を頂点として伸び悩んでいる中で、輸入は数量ベースでは伸び続けており、特に需要量が最も多いキクについては韓国を中心とするアジア諸国から輸入が急増している。また、月別輸入量の変動が平準化しつつあり、オランダを中心とするヨーロッパからアジア諸国へ輸入相手国が多様化している。また、国内の輸入先税関も輸入相手国の変化にともない成田(首都圏)から西日本の地方都市へ分散化し、それに伴い卸売市場での取扱量も西日本の広島市場では急増している。
調査報告
アンケート調査からみたバレンタインデーにおけるチョコレートの消費動向(要約)
後藤 祥子(食品需給研究センター)
「家計調査」によるとバレンタインデーシーズンには、一般家庭でもチョコレートの購入が増えているが、バレンタインデーシーズンのチョコの購入者は20 代・30 代の独身女性が中心であるため、「家計調査」のみではその実態を掴みにくい。そこで、当センターが実施した最近のアンケート調査により、バレンタインデーシーズンにおけるチョコレートの消費動向とプレゼントの傾向を紹介する。
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