発行日 平成15年4月25日
編集/発行 社団法人 食品需給研究センター
78ページ
定価2,100円(本体2,000円)完売しました。
巻頭言
メンタル産業の世紀
池戸 重信(独立行政法人 農林水産消費技術センター 理事長)
今世紀はメンタル産業の時代といわれる。例えば「なんでも鑑定団」に見られるような骨董趣味や美術・芸術愛好そしてブランド志向等をターゲットとした分野はその代表といえる。いずれも、機能面よりも消費者の精神的満足を最大限にねらった産業である。ガーデニング市場も同様である。肥料や農薬について家庭園芸用の流通量だけみると、農業分野と比較してほんの僅かであるが、その量の割には当該関連市場は相当規模に及ぶ。これらは、まさに精神的快適性や夢の部分が「売り」となっている。また、上記の分野が正のメンタル産業であるとすれば、負の分野も無視できない。すなわち、過剰なストレス等に由来する心療内科などメンタルヘルスの分野である。こちらも年々ニーズは拡大している。
食品産業分野ではどうであろうか。現在の食品産業活性化のキーワードは「安全性」、「健康」そして「環境」と言われており、それぞれにソフト、ハード両面の技術開発がなされている。ただし、例えば安全性確保対策に努めている食品企業のいずれもが、いかにそれを消費者の「安心」につなげるかで悩んでいる。また、健康ブームのもとに開発されている数千億円市場規模の機能性食品の中には、実質的効果以上に、効いた気がする、いわゆる「気のせい食品」的効果が売上げに影響している。更に、外食の分野では、美味しさ以上に、雰囲気を演出する食空間、食環境の効果が求められている。といったように、食品産業分野においても、「安心」、「満足」、「快適性」のような消費者の精神的、心理的効果等メンタル的要素が重要となってきている。
ところで、時代を遡って20世紀初年(1901年)に報知新聞社が当時の知識人を集め、1世紀後の世界を予測させた記録がある。それによると「7日間世界一周」「暑さ寒さ知らず」「写真電話」「東京、神戸間2時間半」等々種々の予測がなされたが、そのうち自然科学的分野に関したものは今やことごとく実現された。ただし、「人と獣との会話自在」や「幼稚園の廃止」といった人間の精神、感覚等形而上的予測に関しては、ほとんど進展・変化がみられなかった(今世紀になって犬語が翻訳できる「バウリンガル」なるものがヒット)。
本来「科学」の「科」は「分ける」という意味があり、近代科学はものごとを基本構成要素の性質に還元し、分解して詳細に解析する手法により展開してきた。しかしながら、近年こうした手法の行き過ぎの反動として「全体は部分の総和以上である」という信念のもとでの新たな「ホーリズム(全体主義)」が見直されているという。一時ブームとなった「複雑系」という学問分野がそうであり、2000年に我が国で初めて当該分野に関する専門の学部を置いた大学も誕生した。学問体系はともかくとして、食品産業分野においても、数年前官能評価学会が設立された。今後は「メンタル」分野を技術開発の正式の要素として積極的に取り込んでいくことが大いに期待される。
調査報告
食品の流通(要約)
茂木 信太郎(信州大学大学院イノベーション・マネジメント専攻 教授)
食品の流通は、複雑で分かりにくい。供給主体が多種多様であり、商品種類も膨大数に渡り、しかも日々改変されている。そして、消費主体も一様ではなく、消費のされ方も多彩である。自ずと、生産と消費を繋ぐ流通も複雑な様相とならざるを得ない。しかし、経済効率の点からは、ある程度の中核的なスタイルが確立することも確かである。本稿では、食品の生産組織の大型化と流通チャネルの寡占化が進行しているという事態を背景にした、現代日本の食品流通の基本骨格を示した。
調査報告
BSEの影響と食品トレーサビリティ−への展開(要約)
細川 允史(酪農学園大学食品流通学研究室 教授)
わが国におけるBSE患畜の発生は、いわば「黒船」として、これまでの食品行政、食品業界の偽装体質などに大きな変革を迫るものとなった。発生から2年近くが立ち、当初、あれだけ激しく反応し、牛肉消費が激減した消費者の意識も「風化」しつつある。しかし、食品の信頼回復の決め手といえるトレーサビリティシステムは端緒についたばかりで、課題も多い。この解明が食品を巡る今日の最大の課題である。
調査報告
総合食料政策の経済学的基礎(要約)
唯是 康彦(地域政策フォ−ラム 代表)
「総合食料政策」は「経済問題」のみならず、「資源問題」、「環境問題」、「安全性問題」、「自給率問題」、「栄養問題」など幅広い課題を抱えている。従来の政策は農林水産業にとって食品産業の重要性を十分意識しながら、これを「農業政策」として展開してきたために、ややもするとバランスを失いがちな政策におちいってきた。「総合食料政策」にとって、もっとも適した資料は「産業連関表」であるが、これを農業や食品産業を中心に組み替えて、「食料需給の見通し」などに利用し、「経済問題」と「非経済問題」とを連携させ、統一的・整合的政策に利用すべきである。本論では1985年表と1995年表を例にとり、「生産誘発額」の計算を通して利用の可能性を健闘しておいた。これを長期見通しのみならず、毎年の短期見通しに使用するにはまだ幾つかの補完的な作業が必要だが、とりあえずはその骨子を呈示した。補完的作業はここでは明示しなかったが、食品需給センタ−が現在おこなっている作業と関係している。そろそろ20世紀の「家計調査」や「食料需給表」ベ−スの分析・評価から、21世紀の「産業連関表」ベ−スの分析・評価に転換する必要性があるのではないか。
調査報告
子どもの食育の現状と食環境づくりへの課題(要約)
酒井 治子(山梨県立女子短期大学 助教授)
食育の特徴は、望ましい食習慣や食行動の体得を目指すことと、その体験の場としての環境を整えることが重視されることである。保健所、保育所等での子どもを対象とした食育の事例では、地域での食育の拠点のイメージを共有することや、子どもの発達段階に即した教育内容や方法の開発が重要であった。地域ぐるみでの食育を実現するためには、保健所や保育所・学校だけでなく、地域の農業、食品・外食産業の参加が求められる。
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