2023年12月20日更新
日本政府は水産政策の改革の一環として、漁獲割当など漁獲量規制による水産資源管理を進めています。2018年12月に改正された漁業法に基づき、漁獲割当を受けた漁業者からの漁獲量等の報告(以下、漁獲報告)を求めています。平行して、産地市場荷受・漁協から水揚げデータを収集する仕組みも整えつつあります。
また「水産流通適正化法」に基づく水産流通適正化制度を2022年12月にスタートさせました。水産流通適正化制度は、国内において違法かつ過剰な採捕が行われるおそれが大きい魚種(特定第一種水産動植物。制度開始時点ではアワビとナマコ)の水産物を取引する事業者に漁獲番号等の記録・伝達を求める制度と、国際的にIUU漁業のおそれの大きい魚種(特定第二種水産動植物。制度開始時点ではサバ、サンマ、マイワシ、イカ)の水産物の日本への輸入にあたり外国政府機関等が発行した漁獲証明書の添付を求める漁獲証明制度からなります。
<参考>
これら漁獲報告や漁獲証明の制度は諸外国でも、各国・地域の法令や国際的な取り決めに基づいて実施されています。
漁獲報告と漁獲証明は、ともにトレーサビリティと密接な関わりがあります。サプライチェーンを通したトレーサビリティは、漁獲証明書や漁獲報告・水揚げデータを検証する役割を果たしうるからです(下図)。
そこでこのページには、漁獲証明制度や漁獲報告・水揚データ収集の仕組み、さらに水産物のトレーサビリティに関わる情報へのリンクを集めました。漁獲証明や漁獲報告に関わる制度や情報システムの設計・開発・実施・見直しの参考になれば幸いです。
漁獲証明制度は、水産物の貿易の際に、漁船旗国の管轄機関が「その水産物は適法な漁獲に由来する」と認証した漁獲証明書(catch certificateまたはcatch document)の添付を求めることにより、IUU漁業由来の漁獲物の流通、ひいてはIUU漁業そのものを妨げる仕組みです。
以下、諸外国や国際機関の制度について、紹介します。
漁獲証明制度には、EUの漁獲証明制度(catch certification scheme)や日本の水産流通適正化制度(のうち、特定第二種を対象とするもの)のように、輸入国側が輸入製品への漁獲証明書の添付を要求する片務的(unilateral)な仕組みと、地域漁業管理機関による漁獲証明制度(catch documentation scheme)のように、参加国同士が互いにcatch documentの添付を要求する多国間(multilateral)の仕組みとがあります。
欧州連合は2010年1月より、加盟国が輸入する水産物への漁船旗国政府機関による漁獲証明書(Catch certificate)の添付を求めています。
<欧州連合による情報源>
<日本の水産庁による情報源>
米国は2018年1月より、輸入水産物を対象とした水産物輸入監視制度(SIMP)を開始しました。米国の輸入業者に対して、漁獲・陸揚げ段階のデータの提供と、陸揚げ段階から輸入段階までの記録の保存を要求しています。
<米国政府による情報源>
<日本語の解説資料>
<韓国>
<インドネシア>
地域漁業管理機関(RFMO)によって実施されている漁獲証明制度(CDS)には、以下のものがあります。
なお、「統計証明書」は、漁船旗国が発行し貿易される貨物に付随する文書である点は漁獲証明書(catch certificate)と同じですが、漁獲・陸揚げ段階の詳細情報が必ずしも記載されません。
<ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)の大西洋クロマグロを対象とするCDS>
欧州と米国の制度においては、漁業者が魚種ごとの漁獲量等を管轄機関に報告するだけでなく、漁業者から最初に荷受した業者も販売記録(sales notes)を報告します。漁業者からの報告義務は、一定以上の規模の漁船等に絞って課される傾向がありますが、荷受した業者による販売記録は、より網羅的かつ電子的に管轄機関に報告されます。
なお日本の漁業法においては、漁獲報告の義務の対象は漁業者にあり、荷受・販売した業者は、荷受・購入した数量等を報告する義務がありません(漁協等が漁業者から委任を受けて漁獲報告をすることがあります)。
欧州連合では、EU漁船の船長に漁業操業日誌(fishing logbook)と陸揚げ申告(landing declaration)の記入と管轄機関への提出を求めます。また漁船から荷受した販売業者にも販売記録(sales note)の管轄機関への提出を求めています。そして加盟国の管轄当局は、両者からの報告を電子的なシステムによって蓄積し、確認を行っています。水産物のトレーサビリティ(具体的には事業者間のロット情報の伝達など)も要求しています。
この規則は、2018年5月に改正案が提出されており、欧州議会での検討を経て、2023年12月に改正の見込みです。改正案はIUU漁業規則の改正も含まれています。
<マグナソン・スティーブンス漁業保存管理法による規定>
米国では、マグナソン・スティーブンス漁業保存管理法により、海域ごとに8つの地域漁業管理理事会(Regional
Fishery Management Councils)がされ、漁業管理計画の作成・監視・見直しを行っています。
この漁業管理計画で定める事項を示す第1853条
(a)項では、米国漁業者が当局に報告すべき事項(使用された漁具の種類と数量、魚種ごとの漁獲量、操業がおこなわれた水域、操業の時間など)を漁業管理計画のなかで定めるよう、規定しています。(第1853条
(a)(5))
また第1881条(a)項によると、商務長官は「標準化された漁船登録および情報管理システム」(a standardized fishing vessel registration and information management system)を実施するよう勧告を行います。この勧告には、合衆国の水産加工業者、水産物の販売業者(dealer)およびその他の漁船からの最初の購入者に対して、情報を提出を要求するよう、規定されています。
<北東部の事例>
米国北東部にあたる大大西洋管区における記録・報告の定めが、連邦規則集の第50編648条7項のなかで定められています。
漁業許可を受けたすべての漁船の所有者(owner)または操業者(operator)は、航海ごとに漁船航海報告書(Fishing
Vessel Trip
Report。漁船名・許可番号、漁具の種類、漁獲水域、魚種ごとの陸揚げ・廃棄の推定重量、陸揚げ港、販売日、販売業者の許可番号・名称を含む)を作成し、報告書を船上に保管するとともに、NMFSに報告する必要があります(648条7項(b)(1)(@))
また連邦政府から営業許可を受けた販売業者(dealer)は、詳細報告書(detailed
report。仕入先の漁船の名称・許可番号、購入日または受領日、魚種ごとの数量・単価・価額、陸揚げ港を含む)を作成の上、保管し、地域の管理当局に提出する義務があります。(648条7項(a))
以下、漁獲証明・漁獲報告・水産物トレーサビリティに関わる食品需給研究センターが関与した報告書・ガイドライン等をリストします。
漁獲証明書(catch certificate)
漁獲証明制度(catch documentation scheme)
食品のトレーサビリティ(traceability)
一般社団法人食品需給研究センター Food Marketing Research and Information Center
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