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インタビュー「この人の想い」

第1回 新井ゆたか さん 農林水産省 総合食料局 食品産業企画課長

食農連携事業の概略と推進の方向性

 農林水産省と経済産業省との共管で進められている農商工連携のこれまでの取組とその成果、また、今後の全体構想等をお聞かせ下さい。

新井ゆたか_1  農商工連携は、農林漁業者と食品事業者等の商工業者の方々が、お互いの「技術」や「ノウハウ」を持ち寄って新しい商品やサービスの開発・提供や販路の拡大などに取組むものです。

 また、農林水産省では「食農連携促進事業」を展開しておりますが、この事業は農林水産業と商工業の連携による産業の活性化を目指すものです。食品産業は農林水産業を含めるとその産業規模は大きく、経済産業省の統計によれば、自動車産業よりも大きい産業です。そういった産業が活性化することは、地域経済にとって大切なことであり、まさに「食農連携促進事業」は、地域にとって明るい未来につながるものと考えています。

 現在、農林水産省と経済産業省は共同で農商工連携の施策を推進しております。

 まず、昨年4月に農商工連携に先進的に取組んでいる事例として「農商工連携88選」を公表しました。選定に当たっては全国から240件もの応募があり、農商工連携への期待や意欲の高まりを実感したところです。そして昨年7月には、「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律(農商工等連携促進法)」が施行されました。法律に基づく金融・税制面での支援がスタートした他、農商工連携を支援するための様々な予算も準備しております。

 農商工等連携促進法による事業計画の認定は、昨年9月の第一回認定以降、これまでに250件行われ、5年で500の目標を上回るペースで推移しており、非常に嬉しいことだと思っています。農商工連携の取組は、地域の資源を使って、食品のみならず食品以外のものへも応用していくことができ、また取組まれる方も食品事業者の方だけではなく、ITや観光産業の関係者など様々な方が参加する取組も可能です。異業種との連携は、その波及効果も大きく、世の中の注目が高くなっていると感じています。

 農林水産省では地域の農林漁業者と食品事業者等との連携を図るための出会いの場づくり、技術開発の支援、連携のための助言を行う人材の育成、地域の農林水産物を活用した新商品づくりや展示会への出展等トータルな支援を行っており、こういった予算をうまく活用し連携を図っていただきたいと思っています。農商工連携の法律上の仕組みとしては、農林漁業者と食品事業者等の商工業者の二者以上の方の結びつきが基本要件になっていますが、最終的な目的は、地域経済を活性化させることだと考えています。

 今後の構想としては、先程もご紹介しましたが、法律に基づく事業計画の認定、優良事例となるものですが、5年間で500件の創出を目指しています。今後は連携の取組が進んでいない地域に力を入れることや、この取組で作られたものがしっかりと売れる商品になっていくことを強力にサポートしていきたいと考えており、そのためにはこれらの取組が着実に成果を挙げるとともに、本制度の活用が一層広がっていくことを期待しています。

食農連携における人(連携担当者等)の重要性(お考え)

 事務局では、このような連携に関連した取組を推進するには、現地の担当者、コーディネーター、原料の供給者、加工業者、商品の販売先など人の重要性を、一つのポイントとして考えています。この点について、お考えをお聞かせ下さい。

 実際、事業者の方々とお話しすると、農林漁業者、商工業者の双方から、農商工連携に関心を持たれている一方で、連携に取組むことへの不安や難しさをお聞きします。また、地域ごとに眠っている資源、置かれている経済・社会的な状況により取組が大きく異なります。

 農商工連携により地域の資源を活かして新たな市場を開拓していくためには、誰がどういう技術を持っているのか、どの地域にどういうものがあるのかを把握していく必要がありますが、意外と知っているようで知らないのではないでしょうか。

 農林漁業者と食品産業等の商工業者それぞれが持っている資源や技術をつないでいくためには、やはり人が重要だと思っています。これまで、そういったものをつなぐ場として、セミナーや交流会を開催してきました。その成果として、農林漁業者と食品事業者等を結ぶことにつながってきたと思っています。

 ただ、農商工連携で非常に難しいのは、それぞれを連携させた上で、それぞれの事業者に利益をもたらすような形にしなければいけません。一方だけが利益を得るようではうまくいかないのです。事業者の連携をコーディネートする方には苦労がかかることだと思っていますが、そういったことをやっていただける人材を育てていくことが重要で、今後の農商工連携を進める中でひとつのキーになるものと考えています。

7/31稼働の『食農連携コーディネーターバンク』への思い

 人の重要性を鑑みた場合の一つの事業として、今回、『食農連携コーディネーターバンク』が設置されました。この取組に対する思いをお聞かせ下さい。

新井ゆたか_2  農商工連携に取組む現場において、2つの課題が指摘されてきました。一つ目は、マッチングから事業化まで一貫したサポート体制がないということ。マッチングはしてもらえるが、その後、誰に何を聞いたらよいのか分からないという連携が少なくありません。二つ目は新商品を開発しても、実際に売上に結びつけるまでの販路開拓が難しいということでした。

 こうした課題に対処するため、商品開発、マーケティング、ブランド化等の様々な専門分野の知見を有する方を登録する「コーディネーターバンク」(以下、FACOバンク)を7月末に立ち上げ、農商工連携に取組む農林漁業者や食品事業者等に紹介することとしました。

 連携をしていく上で、行き詰った時にその課題解決に向けたアドバイスを受けるための専門家が紹介されていること、また、今回公募を開始しましたが、FACOバンクでは販売部門の方もたくさん紹介する予定ですので、販売側から見た、売れる商品作りという視点が加わることで、実際に商品を開発した方にとって大きな助けになるのではないかと期待しています。

 農林水産省としては、FACOバンクは、農商工連携の芽を見つけ、育て、地域の活性化につなげていくための重要なインフラであると考えております。これからFACOバンクに登録していただくコーディネーターを増やしていくと同時に、FACOバンクを使っていただくためのPR活動を頑張って行っていただきたいと思っております。

農林水産省における今後の関連施策の展開

 食農連携、農商工等連携のより一層の推進に対し、農林水産省では、9月〜11月の期間を対象事業の強化月間とするとのことです。補正予算の事業も含め、具体的な展開についてお話ください。

 本年度の9〜11月を中心に、農林漁業者と商工業者のマッチング、新商品開発・販路開拓、本格的な事業化といった連携の各段階の取組への支援を強化していきます。

 イベントとしては、農商工連携の施策や取組の先進事例を紹介するセミナーや、農商工連携に関心を持つ関係者の交流会を各地で開催します。その他に、地域の食品の販路拡大や食品製造業者、流通業者、外食事業者等との交流の機会づくりを目的とした商談会、国産農林水産物を活用した新商品等の販売促進会を開催する予定です。

 また、9月上旬には、農商工連携等の優良事例、支援施策、交流会・シンポジウム等のイベント情報を農林水産業、食品産業、観光産業等の事業者、地域の行政や関係機関等に提供する農商工連携メールマガジン(仮称)を立ち上げます。

 今後とも、全国にその地域ごとの個性を生かした多様な連携が生まれるよう、農商工連携に取組むためのノウハウの浸透、コーディネーター等の人材の育成・確保や販路開拓のための機会の創出をはじめとして、事業者の方々の積極的なチャレンジを促すための環境づくり、施策の充実に努めていきたいと考えています。

新井課長オススメの本があるということですが。

新井ゆたか_3  マーケティングの基本書で、自分達が作った商品がいま市場のどこに位置づけされていて、どうやればマーケティングに達するかが書かれています。食品のマーケティングについても、例をあげてわかりやすく書かれているので一読をおすすめしたいと思います。

『わかりやすいマーケティング戦略』 (有斐閣アルマ)、沼上 幹 (著)